革靴に使われる牛革(カウレザー)の種類
革と言えば最初に連想される「牛革」。革靴だけではなく多くの革製品は牛革で作られており、革全体の輸入量のうち牛革はその80%以上を占めています。しかし、牛革は1種類だけではありません。同じ牛革でも性別や年齢、なめしや加工法などによって全く異なった特性を持ちます。そんな牛革の種類ごとの特徴をご説明します。
スポンサーリンク
年齢や性別による牛革の違い
牛革にはひとまとめにできないほど多くの種類があります。最初の大きな分類は、牛の性別と年齢によるものです。このような分類がされる理由は、同じ牛の革でも、性別差と年齢差がダイレクトに質感や表情の違いとして革に現れるためです。
もちろん耐久性にも大きな違いが出るので、革の種類によって用途も異なりますし、価値も異なってくるので価格にもその差が出てきます。
以下に、牛革の年齢や性別の違いによる分類で、最低限押さえておいて欲しいものをご説明します。
ステア
生後3か月から6か月に去勢した、2歳以上の雄の皮です。安定した品質が特徴で、需要も供給も多い最も一般的な牛革です。特別な表記がない牛革は、このステアであることが多いです。
カウ
生後2年以上の雌の皮です。ステアと比較すると薄く、きめが細かいのが特徴です。しなやかさも魅力で、ステアに次いで利用頻度の高い牛革です。
キップ
生後6か月から2歳くらいまでの皮です。肉厚で丈夫であり、銀面のきめが細かく滑らかな点が特徴です。近年需要が急激に高まってきており、キップの時代と言われています。
カーフ
生後半年以内の仔牛の皮です。最も緻密な繊維構造をしており、キメ細やかで薄い点が特徴です。牛皮の中で最高級品とされています。高級バッグや高級靴にされることが多いです。
部位による牛革の違い
原材料としての牛皮は、年齢と性別による分類ともう一つ「部位」によって分類されます。焼き肉を例にすると分かりやすいと思います。カルビやハラミ、タンなどは同じ牛でも部位が異なるため味や質感は全く異なります。同様に部位によって皮の性質が異なるのです。
これは、皮下組織の繊維質が異なるためです。以下に基本的な部位による性質の違いをご説明します。
ネック
首の皮のことであり、よく動く部位であるため緻密で丈夫な特徴を持ちます。ただ、トラと呼ばれるシワが強く入っていることが多く、ロスが多い部位でもあります。
ショルダー
肩の皮であり、品質は高いが厚みが薄い点が特徴です。良く動かす部分ですので柔軟性は高いですが、トラも多い部位です。
ベリー
あばらの部分の皮であり、最も薄い皮です。柔らかく加工がしやすいですが、伸びやすく破れやすい耐久性の低い部位です。
レッグ
足の部分の皮であり、分厚いのが特徴で様々な加工に適しています。
なめし方法による牛革の違い
動物の皮を革靴やバッグなどの製品に加工するためには、「なめし」という加工が必ず行われます。なめしを行わないと皮は耐久力が極めて低く、すぐに腐敗します。
なめしを行うことによって皮は、弾力と耐久力が備わり、色々な製品として使用に耐えられる強度を持った「革」となります。
なめしとは、皮のコラーゲン繊維になめし剤を浸透させる工程のことです。この時使われるなめし剤によって仕上がりが異なり、革の質感に違いが生まれます。
代表的ななめし方法について以下でご説明します。
クロムなめし
現在のなめしの主流です。なめし剤として塩基性硫酸クロムという化学薬品を使用する方法です。短時間で効率よくなめしを行える点が利点であり、その経済性の高さから主流となっています。
ただ、化学薬品で急速になめしを行うので、皮に負担がかかるのがデメリットです。しかし金属的な輝きが魅力で、保存性と耐熱性が高くなります。
植物タンニンなめし
植物由来のタンニンをなめし剤として使うなめし方法です。1~2か月ほど漬け込みに時間がかかり、手間がかかる点がデメリットであり、その手間から植物タンニンなめしはあまり使われず、全体の10%以下です。
しかし、天然素材で時間をかけてなめすので皮への負担が少なく、自然な質感で仕上がり、経年変化が美しい革となります。
混合なめし
クロムなめしと植物タンニンなめしを両方行うなめし方法です。両方の特徴をもった革に仕上がります。時間がかかり過ぎず、皮も痛めすぎないバランスの良いなめし方法であり、近年人気が上がっています。
加工方法による牛革の違い
なめしを施された革を、革靴などのそれぞれの製品に適したものへ変化させる加工技術。同じ革であっても、加工によってその質感や風合いは一気に表情を変えます。ここでは代表的な加工方法についてご説明します。
スムース加工
丈夫な銀面(外気にさらされていた外側の面)を平滑になるように加工する方法です。加工方法によって質感や光沢に差異が生まれます。
銀つき革やガラスレザー、パテントレザーなどが代表的です。この加工がなされた革靴は滑らかな質感で柔らかい印象を与えます。
起毛加工
つるりとした銀面を活かさず、革の繊維を露出させることによってあえてケバたたせた加工です。最初からある程度のケバ立ちがある裏面を使用する方法と、銀面を削ってケバ立たせる方法があります。
ベロアやヌバック、スエードが代表的です。起毛加工がなされた革靴は、ベルベットのような柔らかで滑らかな肌触りが特徴です。
その他の加工
他の加工法としては、凹凸を出す加工とオイリーな加工などがあります。
凹凸を出す加工は、絞り革や主リングレザー、型押し革が有名です。この加工がなされた革靴は、表情が豊かでデザイン性が高いのが特徴です。
オイリー加工は、通常よりも多くのオイルを使用して加工されたツヤツヤな質感が特徴です。耐久性が増しますがオイルの分重くなるデメリットもあります。
仕上げによる牛革の違い
近年、ファッションの多様化に伴って革製品の種類も増えています。職人が革という素材をいかに画期的で、個性的で、個性的なものにできるかと試行錯誤しています。
この仕上げによっても革は大きく表情を変えます。代表的な仕上げ方法をご説明します。
素上げ
染料や仕上げ剤を使わず、フエルトバフで銀面にツヤを出した革です。ほぼ仕上げで加工を施していない素の革です。経年変化しやすく、綺麗な飴色に変化します。
染料・顔料仕上げ
染料や顔料で革に色を染めて仕上げる方法です。顔料仕上げは綺麗に仕上がりますが、経年変化が起こりません。
アンティーク仕上げ
ヴィンテージな印象を持たせるために、イレギュラーなムラ感を出して仕上げる加工法です。染色の段階からムラを出す方法と、仕上げのクリームによってムラを出す方法があります。
アニリン仕上げ
顔料が低まれていないアリニン染料によって染色し、透明なタンパク剤で仕上げる方法です。革が本来持つ、繊細で美しい銀面が活き、柔らかい仕上がりになります。